いとおかし・いとをかしの意味とは?古文・枕草子から学ぶ使い方
更新:2019.06.21
古文では必ず出てくる重要単語の「いとおかし・いとをかし」とは、どういう意味があるのでしょうか?同じくよく使われる「わろし・あなおかし」の意味も含めて、古文・枕草子から学んでみましょう。現役学生さんはもちろん、改めて興味を持った大人の方にもわかりやすい使い方をご紹介します。
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INDEX
いとおかしを分解!「いと」「おかし」それぞれの意味は?
「いと」の意味とは
「いと」の意味
- とても・非常に・大変
- 下に打ち消す言葉を加えて)それほどでも・たいして
「いとおかし」という言葉を更に細かく分類すると、「いと」と「おかし」に分けることができます。まず「いと」の意味ですが、上記のように2通りの使い方があります。
「いとおかし」の場合打ち消す語はないので、1番の「とても・非常に・大変」という、後に続く言葉を強調する意味になります。また2番の使い方については、以下の例文を参考にしてみてくださいね。「やむごとなき」とは「高貴な身分」という意味です。
源氏物語の原文・現代語訳
原文 | いとやむごとなききはにはあらぬが |
現代語訳 | それほど高貴な身分ではない方で |
②「おかし・をかし」の意味とは
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「おかし・をかし」の意味
- 趣(おもむき)・風情(ふぜい)がある
- 優れている・素晴らしい・見事だ
- 興味深い・心惹かれる
- 美しい・愛らしい・可愛い
- こっけいだ・おかしい・面白い
続いて「おかし・をかし」の意味ですが、「いと」よりも様々な意味があり、前後の文章・使い方によって微妙に変わってくるので注意が必要です。また「おかし・をかし」と2通りの書き方が見られますが、「おかし」は現代語仮名遣いにしたものなので本来は「をかし」が正しい表記になります。
徒然草の原文・現代語訳
原文 | また、野分の朝(あした)こそをかしけれ |
現代語訳 | また、台風があった翌朝のありさまは興味深い |
徒然草(つれづれぐさ)は、鎌倉時代に吉田兼好が書いたとされる随筆です。「徒然」とは「やるべき事がなくて手持ち無沙汰なさま」、「草」とは「本や仮名書きの物語・日記・歌など」のことです。徒然草ではユーモアや皮肉を交えながら、様々な事柄が綴られています。上記の文も、その情景をイメージすることができますね。
日本に古来からある大和言葉は、独特の響きが美しいですよね。「いとおかし」を私達の日常会話で使うことはあまりないと思いますが、以下の記事では現代でも違和感なく使える大和言葉が紹介されています。日本語の美しさに興味を持たれた方は、この機会にぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか?
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「いとおかし」「いとをかし」の意味とは?
「いとおかし・いとをかし」の意味①とても趣がある・風情がある
「いとおかし・いとをかし」の意味1つ目は、「とても趣がある・風情がある」です。「趣(おもむき)・風情」とは「しみじみとした味わい・自然と感じられるいい雰囲気」という、日本古来からある美意識のことです。四季折々の風景や空模様など、繊細な感情の変化を大切にしてきた日本人らしい表現ですね。
「いとおかし・いとをかし」の意味②優れている・素晴らしい・見事だ
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「いとおかし・いとをかし」の意味2つ目は、「優れている・素晴らしい・見事だ」です。「いとおかし」が1番使われていた平安時代の貴族がよく行っていたのは、詩歌を作ったり管弦を演奏したりする遊びです。その他蹴鞠(けまり)やコマ回しなど、様々な遊びの様子を表現する時にこの意味が使われていたのでしょう。
「いとおかし・いとをかし」の意味③興味深い・心惹かれる
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「いとおかし・いとをかし」の意味3つ目は、「興味深い・心惹かれる」です。ある物事に対して特別な関心を持った時に使われる表現です。現代とは全く生活が違う1000年以上前の人々がどんな事に関心を持っていたのか、私達にはそれ自体興味深いことですね。
「いとおかし・いとをかし」の意味④美しい・愛らしい・可愛い
「いとおかし・いとをかし」の意味4つ目は、「美しい・愛らしい・可愛い」です。幼い子どもの様子や、平安時代からペットとして愛され始めた猫の様子を見た時に多く抱いた感情だったのではないでしょうか。
現代でもまた、猫は大人気のペットですよね。ここで、そんな可愛い猫の画像を集めた関連記事をご紹介します。「いとおかし」な猫を眺めて癒されてみませんか?
「いとおかし・いとをかし」の意味⑤とてもこっけいだ・おかしい・面白い
「いとおかし・いとをかし」の意味5つ目は、「とてもこっけいだ・おかしい・面白い」です。「こっけい」とは「おどけていておもしろいこと・ばかばかしいこと」という、笑いを含んだ意味の表現です。
「おかし・をかし」という言葉だけで見ると、現代の意味に一番近い内容なので分かりやすいですね。室町時代以降に「こっけいだ」という意味が主要になり、江戸時代に「滑稽本(こっけいぼん)」などで定着していきました。そこから少しずつ現代の意味に近い「おかし」になっていったのです。
POINT
滑稽本とは?
滑稽本は、江戸時代後期に流行した小説の1種です。江戸の庶民の日常生活を、主に会話形式でこっけいに描写したものです。代表作は十返舎一九の「東海道中膝栗毛」、式亭三馬の「浮世風呂」などがあります。
古文・枕草子での「いとおかし」の意味と使われ方は?
更級日記での「いとおかし」の意味と使われ方
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更級日記の原文・現代語訳
原文 | 笛をいとをかしく吹き澄まして、過ぎぬなり |
現代語訳 | 笛を大変素晴らしく見事に吹き、通り過ぎて行ってしまったようだ |
更級(さらしな)日記とは、平安時代中期の女流日記文学です。作者は菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)という、学問の神様として有名な菅原道真の子孫です。「源氏物語」が大好きだった少女時代から、約40年間を綴った回顧録となっています。
上記の文は、菅原孝標女が姉と一緒に月を眺めていた時に通り過ぎて行った人の様子が描かれています。ここでの「いとをかし」は、「優れている・素晴らしい・見事だ」という意味で使われています。笛を見事に奏でながら去っていくなんて、平安時代の貴族らしくて素敵な様子ですね。
枕草子での「いとおかし」の意味と使われ方
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枕草子の原文・現代語訳
原文 | まいて雁(かり)などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし |
現代語訳 | まして雁などの列が連なっているのが、とても小さく見えるのは大変趣がある |
枕草子は、平安時代の女流作家・清少納言によって書かれた随筆です。枕草子の冒頭では、清少納言が春夏秋冬それぞれに感じる趣を場面ごとに描写しています。上記の文は「秋は、夕暮。」から始まる、秋の趣が記された場面の1つです。
秋の夕暮れ、空が段々暗くなってきた頃に雁などの鳥たちが列をなして飛んでいく姿は現代でも変わらず見られる風景です。まさに「趣」の意味そのままの、しみじみとした味わいが感じられる1場面ですね。
源氏物語での「いとおかし」の意味と使われ方
源氏物語の原文・現代語訳
原文 | いとをかしう、ようようなりつるものを |
現代語訳 | とても可愛く、だんだんなってきていたのに |
源氏物語は、清少納言と同じく平安時代の女流作家として有名な紫式部による長編物語です。主人公の光源氏を中心に、貴族たちの恋愛や人生が描かれています。枕草子が「をかしの文学」と言われるのに対して、源氏物語は「あはれの文学」と言われています。清少納言と紫式部はライバル関係だったとも言われていますね。
そんな源氏物語で使われている「いとをかし」は、登場人物の若紫という少女が飼っていた雀を逃がされてしまった時の言葉です。雀の可愛さを強調していることで、若紫が嘆き悲しんでいる様子が伝わる表現になっています。
POINT
「あはれ」とは?
「あはれ」は、「をかし」と同じく「しみじみとした趣・感動」などを表す言葉ですが、捉え方が多少異なります。「あはれ」は【感情的で心の底から湧き出るような情感】、「をかし」は【知的で客観的な感想】といったニュアンスがあります。
そのほか古文でよく使われる「あなおかし」「わろし」の意味は?
古文でよく使われる「あなおかし」の意味
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「あなおかし」の「あな」とは、「ああ・あれ・まあ」といった感動詞です。驚いた時や、感動した時に思わず出てしまう言葉ですね。その「あな」を今までご紹介してきた「おかし」の前に付けることで、それぞれの意味を引き立たせるような言葉になります。
「あなおかし」の他に「あな」を付ける言葉としては、「あなうれし」「あなかしこ」(かしこ=恐れ多い)などがあります。下の例文での「あなおかし」は、「美しい」という事実に感動している様を表現していますね。
枕草子の原文・現代語訳
原文 | 人の顔にとりわきてよしと見ゆる所は、たびごとに見れども、あなをかし |
現代語訳 | 人の顔で格別に良く見える所は、何度見ても、まあ美しいものだ |
古文でよく使われる「わろし」の意味
「わろし」の意味
- よくない・好ましくない・感心できない
- 見劣りがする・みっともない
- 下手だ・つたない
- 貧しい
「わろし」も平安時代から多く使われるようになった言葉で、「よろし」の対義語である否定的な意味あいになります。「わろし=悪し」と、良くないイメージの言葉であることが想像しやすいと思います。枕草子では以下のように使われ、「みっともない」という意味として「わろし」が使われていますね。
枕草子の原文・現代語訳
原文 | 火桶(ひおけ)の火も白き灰がちになりてわろし |
現代語訳 | 丸い火鉢の火も白い灰が目立つようになって、みっともない |
「いとおかし・いとをかし」の意味を理解して古文に親しもう
以上「いとおかし・いとをかし」や「わろし・あなおかし」など、古文でよく使われる表現についてご紹介しました。日本人なら誰もが1度は耳にしたことがある言葉だと思いますが、細かく説明できる人は少ないのではないでしょうか。当時の言葉を理解することは、当時の人々を理解することに繋がります。
そうすると意外と現代の私達と変わらないようなことを思ったり感動していたんだということが分かって、何だか親しみを感じますよね。古文がただの勉強ではなくて、グッと身近で面白みがある存在へ変わっていくと思います。この機会にもっと古文に触れて、親しんでいきましょう!
そして歴史にどんどん興味が沸いてきたら、以下の関連記事もおすすめです。日本神話の守護獣・動物神を通しても昔からの言い伝えや歴史を知ることができ、現代の生活にもつながっているので面白いですよ。
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